食物アレルギーの二重抗原曝露(ばくろ)説
「二重抗原曝露説」というのは、食べ物のタンパク質が身体に取り込まれるルートが2つあるという説で、1つめは皮ふから体内に入るルートで、2つめは口(消化管)から体内に入るルートです。皮ふからタンパク質が身体に入ると、アレルギー反応を起こす方向にはたらきます。消化管から入る場合は、アレルギー反応を起こしにくくなる方向にはたらきます。この仮説に沿って、実際どのようにして卵アレルギーが発症するのかみてみましょう。
家の中にはホコリがありますが、そのホコリを調べてみると、中に卵のタンパク質がダニのタンパク質よりも多く含まれていることがわかりました。卵だけでなく色々な食べ物のタンパク質も含まれているようです。赤ちゃんを含め私たちは毎日このホコリと接触しています。皮ふにホコリが接触したとき、皮ふに湿疹があったり、乾燥肌であったりすると、皮ふのバリア機能が低下しているため、皮ふのほころびのところから、卵のタンパク質が皮ふの中へ入ってきます。すると、身体は卵のタンパク質を異物と判断して、IgE抗体が作られます。この状態を「感作」と言います。皮ふを介しての感作なので、「経皮感作」と呼びます。感作されている状態とは、今後卵のタンパク質が身体の中に入ってきたときに、IgE抗体で捕らえて排除しようとする態勢がすでに整っているということです。そして、ある日卵を食べると、身体の中にあるIgE抗体が卵のタンパク質と結合し、アレルギー反応が引き起こされ、じんましんや湿疹、症状が強い場合は、おう吐や喘息といった症状が認められます。卵アレルギーの発症です。
「経皮感作」による食物アレルギー発症の例としては、過去に、赤ちゃん用のオイルに含まれていたピーナッツの成分でピーナッツアレルギーの発症率が高まったことや、石けんに含まれていた小麦の成分で小麦アレルギーの発症が認められたことがあります。
一方、口から食べて消化管から身体の中に入ると、自分とは違う食べ物のタンパク質を異物として排除するのではなく、受け入れる方向にはたらきます。アレルギー反応を起こさなくなるので、これを「免疫寛容」と言います。その仕組みはやや複雑で、食べる時期や量には制約があります。卵の場合には、生後5か月まで湿疹のない良い皮ふの状態を保ち、6か月から少量の卵(0.2g/日)を食べさせ始めると、卵アレルギーを予防することができる、という研究報告があります。が、まだ一般家庭で誰でもできる方法にはなっていません。
昔は食物アレルギーの治療というと、原因食物の完全除去でした。今では、そのような指導を行っているところはないと思います。今は血液検査や経口負荷試験などの結果を参考にして、アレルギー症状を起こさない範囲で食べられる量を食べさせる治療が行われています。除去する必要のない食べ物まで除去しないようにしています。完全に除去するよりも、食べられる量を少しずつ食べ続けた方が、食物アレルギーは早く治る可能性があります。また、一部の専門的な施設で行われている治療として、経口免疫療法があります。医師の指導のもと毎日決められた量の原因食物を摂取し、最終的に耐性(*)獲得を目指す方法です。
(*)耐性とは、成長とともに消化機能と免疫機能が成熟し、アレルギー症状を起こさなくなる状態
食物アレルギーを予防するには、その始まりである「経皮感作」を防ぐ必要があります。そのためには、赤ちゃんの皮ふの状態をできるだけよい状態に保たなければなりません。すべての赤ちゃんが必要としている訳ではありませんが、生後早期から保湿剤を使用することは有効であると考えられています。特に、兄姉に食物アレルギーがある場合や乾燥肌、湿疹がある赤ちゃんの場合は、積極的に保湿剤を使用することをおすすめします。湿疹がある場合には、湿疹の治療も合わせて行いましょう。
食物アレルギーはそのすべてが解明されているわけではなく、今後も多くの発見がありうる分野です。予防や治療に関しても、これから新たな方法が見つかると思われます。