起立性調節障害
起立性調節障害は成長期にみられる病気です。身体の成長に自律神経の働きが追いつかないために、様々な症状がみられます。軽いものも含めると中学生の約10%にみられます。頭痛、立ちくらみ、めまい、朝の起きにくさ、倦怠感、腹痛などの症状がみられますが、これらの症状が午前中は重く、夕方から夜にかけては軽くなり元気になるという特徴があります。診断では、まず以下の症状の内3つ、あるいは、重いものが2つ以上ある場合に起立性調節障害が疑われます。
1.立ちくらみやめまい 2.起立時の気分不良や失神 3.入浴時や嫌なときの気分不良 4.朝起きられず午前中は不調 5.頭痛 6.腹痛 7.動悸 8.倦怠感 9.食欲不振 10.車酔い 11.顔色が悪い
貧血や心疾患、内分泌疾患などの病気がないか診察・検査を行います。診察・検査で異常がなければ、次に、新起立試験を行います。そして、次のサブタイプの判別を行います。
①起立直後性低血圧、②体位性頻脈症候群、③血管迷走神経反射、④遷延性起立性低血圧
治療には、薬物療法と非薬物療法がありますが、非薬物療法のウェイトが大きく、薬物療法は補助的な役割です。病気が起こる仕組みを理解して、日常生活の中で症状を軽くするためにできることをします。
立ちくらみがありますが、立ち上がるときには頭を低くした姿勢で、ゆっくり立ち上がるようにします。お風呂でお湯につかって身体が温まったときに、湯船から上がろうとして立ち上がるとめまいを起こすことがよくあります。お湯につかってリラックスすると、副交感神経が働き、心拍数はゆっくりになり、血管が拡張し、血圧は下がります。この状態で立ち上がると、身体の中の血液は重力の影響で、身体の下の方、足の方に移動します。足の血管が拡張していますので、たくさんの血液が足にたまります。すると、脳へ送られる血液が不足し、立ちくらみ、めまい、気分不良といった症状がみられます。最悪の場合、意識がなくなり倒れることもあります(失神)。湯船から上がるときには、手すりを持って、頭を下げた姿勢で、ゆっくり立ち上がって出るようにしましょう。
じっとして立つ時間は数分以内にします。立つときは足をクロスするとよいようです。水分を十分に(1.5~2リットル/日)飲み、おかずの味を濃い目にして、塩分をやや多めに摂取するようにします。
立っているときに、足へ行った血液は1m以上の高さを上がって心臓まで帰ってきます。その時に、働いているのが、静脈弁と筋ポンプです。静脈弁というのは、手足の静脈の中にある弁で、血液の逆流を防いで、足先から心臓の方向にだけ血液が流れるようにしています。筋ポンプというのは、筋肉が収縮すると、筋肉の内側にある静脈が圧迫されて、中の血液が押し出されるというものです。その時、静脈弁の働きで押し出された血液は心臓の方へ向かいます。立ちくらみを起こしやすい人は、筋ポンプの働きが弱いことがあります。足の筋力をアップさせるために、ジョギングやウォーキング、室内でならスクワットなどをするとよいでしょう。
朝の起きにくさはほぼ必ずみられる症状です。寝ている状態では、心臓は血液を同じ高さの脳や手足に送っているだけですが、身体を起こすと心臓から脳へ30~40cmくらい押し上げなければなりません。心臓の収縮力を強めなければなりませんが、この調節は自律神経によって行われます。寝ているときの副交感神経から、起きたときの交感神経への変換がうまくできないと、心臓もまだ寝たままです。まず、家の人にカーテンを開けてもらい朝の光を浴びて脳を目覚めさせます。心臓を目覚めさせるためには、ベッドの中でよいですから、少し身体を動かします。手足の曲げ伸ばし等をします。それから、ゆっくり上体を起こします。もし可能ならば、腕を回したりしてもう少し身体を動かし、心臓の覚醒を促します。効果が不十分な場合は、薬物治療を試みます。
朝起きる時間が遅くなり、夜元気なため寝る時間が遅くなるという状態が続くと、睡眠相後退症候群になることがあります。睡眠時間がどんどん遅くなり、最終的には昼夜逆転してしまうこともあります。そうならないように、できるだけ生活リズムを崩さないように努めます。学校へ行けなくても、朝7時頃には起きて、夜は9~10時には寝るようにして、規則正しい生活を維持するようにします。
前の晩は比較的元気なので、明日は学校へ行く、と言っていても、朝になると身体がしんどくて学校へ行けない、ということはよくあります。本人も学校へ行けなくて落ち込んでしまいますので、学校へ行けないのはまだ身体がよくなっていないからで、もう少し時間がかかると考えてください。
多くの場合、身長の伸びが止まり、大人の体型になると症状が治まってきます。軽症の起立性調節障害は、2~3か月でよくなりますが、症状が重い場合は数年かかるようです。