子どもの脳
子どもの脳は、お母さんのおなかの中にいる間に基本的な形はできあがっています。けれども、それからも脳は10歳くらいまで大きくなり、その働きは20歳くらいまでかけて完成します。
1個の受精卵が、分裂を繰り返し、種類の異なる細胞に分化してからだがつくられていきます。
妊娠3週目には心臓や神経系がつくられ始めます。4週目には目、腕、足がつくられ始めます。

胎児の脳の変化(こどもの「こころと脳」を科学する 山口和彦より引用)
神経系は、以後生まれるまでの間成長発達を続け、生まれた後もそれは続きます。お母さんのおなかの中にいる間に、大脳、小脳、延髄、脊髄、脳神経、末梢神経、自律神経など大人と同じ基本的な構造はできあがります。神経系本来の働き、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など外界からの情報を受け取る感覚機能、頭、手足、胴体を思い通りに動かす運動機能、最後に学習、記憶、創造、思考などの働きは生まれてから、さらに数年から20年くらいかけて備わっていきます。脳の中には数百億の神経細胞があり、数のピークは1歳頃で、その後は少しずつ減っていくといわれています。ですから、脳にとっては妊娠3週目から生後1歳頃まで、神経細胞を作り続けるための栄養がとても大切です。タンパク質は必要ですが、タンパク質以上に脂質を必要とします。コレステロールのほか、高度不飽和脂肪酸と呼ばれるアラキドン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などが神経細胞の材料として使われます。DHAやEPAは必須脂肪酸とも言われており、体内でつくることができません。それらは母乳に含まれていますし、乳児用調整粉乳にも含まれている製品があります。

神経細胞の図
神経細胞は核を含む細胞体と細長い神経線維とからできています。神経線維の末端で他の神経細胞との間にシナプスという情報伝達部位をつくっています。
神経細胞は、細胞同士がつながってネットワークをつくることによって、様々な働きをすることができるようになります。この細胞同士がつながる部分は、シナプスと呼ばれています。赤ちゃんの脳の中では、生まれてから2~3歳頃までさかんにシナプスがつくられます。ところが、その後シナプスの数は減っていきます。脳の場所によって減り方には違いがあるそうですが、多いところでは80%くらい、少ないところでも20%くらいは減るそうです。この現象は、「シナプスの刈込み」と呼ばれています。あらかじめ、たくさん用意しておいて、その中で必要のないものは捨ててしまう、というやり方だそうです。つまり、3歳以降6歳頃までに、使わない不要なものをなくして、生きていくのに必要な回路だけ残す、という作業が行われます。例えば、日本で生まれて暮らしている場合、英語のLとRの違いを聞き分けたり、発音し分けたりする必要はありません。また、ピアノを弾くことがなければ、両手の指を同じように動かす必要はないので、利き手でない方の手はあまり器用ではなくなります。外国語や楽器などの習得にはそれに適した開始時期があると言えます。両親の思いと子どもたちの思いを合わせて、楽しい経験や、やりがいを感じる経験などを、この時期の子どもたちに積ませてあげてください。3歳から6歳頃までが、脳の基本的な神経回路がつくられる大切な時期です。(学習などによる長期記憶に関わる神経細胞や神経回路は生涯にわたって新たにつくられるらしいです。)

シナプスの刈込み(脳の誕生 大隅典子より引用)
2歳頃に神経線維が最も密になっていて、成長とともに不要な神経線維が消えていきます。
また、この「シナプスの刈込み」が、神経発達症や精神疾患などの発症に関係している可能性があると考えられています。自閉スペクトラム症では、刈込みが少なく、不要な回路が残っている可能性があります。そのような状態では、感覚過敏となり、感じやすくなります。大きな音や眩しい光、身体に触れられることが苦手であったり、また、ほかの人の目や話し声、話し方を怖く感じたりします。感覚情報のインプットが過剰になっている状態です。直接会話をするより、ノートやキーボードを使ったコミュニケーションの方が適している場合があります。子どもの特性に合ったコミュニケーション方法を見つけてあげることが大切です。

シナプス数と神経発達症や神経疾患との関係(脳の誕生 大隅典子より引用)