注射の痛みを減らすには
生後2か月は「ワクチンデビュー」と言われているように、多くの赤ちゃんは生後2か月から予防接種を受け始めます。出生という命がけの大仕事を終えてからは、平和な日々を過ごしてきた赤ちゃんたちに、人生の試練が始まります。「痛いけれどもがんばろうね」などと声をかけられますが、よくわからないうちに、針を刺されます。こんな理不尽なことがあるでしょうか?赤ちゃんたちは、あまりの衝撃に、大声をあげて泣きます。
赤ちゃんに痛い思いをさせますが、それでもワクチンを接種する必要があります。ですから、私たちはできるだけ赤ちゃんに与える苦痛を少なくするように考えて接種しています。
同時接種での順番
定期接種の種類がふえたために、同時接種が普通に行われています。同時接種する際、痛みの少ないワクチンから順に接種するようにしています。私たちは赤ちゃんにどの注射がどれくらい痛いのかをきいて、それぞれのワクチンの痛みの強さを教えてもらっています。
針の太さ
私たちは、27ゲージという細い針を使っています。一般的に細い針の方が、刺した時の痛みは小さいと言われています。また、ワクチンの準備で、溶解等に使用した針は、接種前には新しい針と取り替えています。溶解する時にバイアルのゴム栓を刺した針は、針先が傷んで切れ味が悪くなっています。そのような針で皮ふを刺すと痛みが強くなります。
同時接種の本数
私たちのところでは、原則一度の接種時に注射は4本までとしています。4種類接種する場合は、左右の腕に2本ずつ接種します。5種混合ワクチンが使われる前は、ヒブワクチンと4種混合ワクチンでしたので、合計4本のワクチンを同時に接種していました。今は、例えば、生後2か月の赤ちゃんでは、小児用肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、五種混合ワクチンの3本を同時接種します。接種本数が増えても、副反応が増えるということはありません。
ワクチン液の温度、注射の速さ
ワクチン保管時の温度管理はもちろん、接種時の注射液の温度や注射をする時の速さにも気をつかって接種しています。
ディストラクション
ディストラクションというのは、注射などの処置のときに、おもちゃなど子どもの注意をひくようなもので、子どもたちの気を注射からそらせることです。当院では、看護師がいろいろ工夫をして行なっています。
混合ワクチン
定期接種のワクチンの種類がふえることは、よいことなのですが、これまでは、ひとつふえると、その分注射の回数がふえる、という状況でした。日本より進んでいる海外では、ワクチンの種類の増加に対して、早くから混合ワクチンを開発して対応していました。日本でも、やっと2024年4月から5種混合ワクチンが定期接種で使われるようになり、注射の回数を1つ減らすことができました。
注射の痛み
注射の痛みは、針を刺したときの痛みと薬液が注入されたときの痛みのふたつに分けられます。皮膚には痛点という、痛みを感じる感覚器がありますが、その数は1cm²あたり150くらいと言われています。針が痛点に当たるときと当たらないときがありますが、私たちには痛点に当たらないように祈りながら針を刺すことしかできません。
ワクチンの種類によって痛みの程度が異なります。痛みの強いワクチンはpHが低い、酸性である、傾向があるようです。肺炎球菌ワクチン、シルガード(HPVワクチン)、二種混合ワクチン、ゴービック(五種混合ワクチン)などは、pHが低いので、痛みが強い可能性があります。ただ、おたふくかぜワクチン、MRワクチン、水痘ワクチンはほぼ同じ弱アルカリ性ですが、水痘ワクチンは他の2つと比べるとやや痛みが強いようです。pH以外にも痛みに関係する要素があるようです。
今シーズンから一般に使われるようになった点鼻式のインフルエンザワクチン、フルミストは注射ではありません。点鼻したときの鼻への刺激もほとんどなく、痛みもありません。画期的なワクチンですが、インフルエンザ以外のワクチンが点鼻になることはなさそうです。注射とのつきあいは続きます。