RSウイルス感染症と妊婦向けRSウイルスワクチン
RSウイルスはすべての年齢の人に上気道感染症を引き起こす普通の風邪ウイルスの1つです。多くの乳児が生後1年の間に感染し、ほとんどの子どもが2歳になるまでに1回は感染します。初めて感染すると、鼻水や咳などの風邪症状がみられますが、その中の20~30パーセントの乳児に細気管支炎や肺炎がみられます。特に生後間もない新生児、特に未熟児が感染した場合、母親からの移行抗体が十分にあると風邪症状で治まることがある一方、不十分だと無呼吸や突然死がみられることもあるので注意が必要です。生後1か月以降の乳児が初めて感染した時の典型的な症状は、4~5日間の潜伏期の後、発熱、鼻水が2~3日みられ、その後咳が出てきます。胸部を聴診すると喘鳴が聞こえます。多呼吸や陥没呼吸などの呼吸困難症状がみられる場合は、入院治療が必要な細気管支炎や肺炎になっている可能性があります。細気管支炎は、鼻汁吸引、輸液や酸素投与などの対症療法により大抵4~5日で軽快します。細気管支炎罹患後は気管支の過敏性が亢進し、後遺症として反復性喘鳴や喘息がみられることがあります。細気管支炎以外の合併症では、中耳炎が多く半数近くにみられます。その他、SIADH(抗利尿ホルモン分泌異常症)、脳症(まれ)などがあります。RSウイルスは感染しても終生免疫が得られないので、多くの小児が毎年再感染します。しかし、年齢が上がるにつれ軽症になる傾向があります。
かつて、RSウイルスワクチンがつくられたことがありましたが、副反応の問題で使用中止になりました。現在、RSウイルスの予防薬としてRSウイルスに対するモノクローナル抗体であるパリビズマブ(商品名シナジス)が使われていますが、対象はRSウイルスに感染すると重症化する次のような疾患の児と早期産児に限られています。早期産児、慢性肺疾患、先天性心疾患、免疫不全、ダウン症候群、先天性食道閉鎖症、先天性代謝異常症、神経筋疾患などです。今回使われる新しいワクチンは、乳児に接種するのではなく、妊婦に接種するワクチンです。妊娠28~36週の妊婦にワクチンを接種し、母体内でつくられた抗体が胎児に移行し、生後RSウイルスに感染した時に発症や重症化を防ぐ仕組みの「母子免疫ワクチン」です。母親を通して子どもに免疫をつけます(商品名アブリスボ)。2026年4月から定期接種になる見通しです(出産予定日が2026年4月23日以降の妊婦が対象となる見込みですが、要確認)。ワクチンの効果としては、生後3か月以内で重症化を約82%予防できたというデータがあります。現在乳児に接種できるRSウイルスワクチンが存在しないことから、生後早期の乳児をRSウイルス感染から守るための有効な手段であると言えます。
今回のRSウイルスワクチン以外に百日咳含有ワクチンも「母子免疫ワクチン」です(現在ワクチン不足・入手困難)。また、インフルエンザHAワクチン(不活化ワクチン)は妊婦のインフルエンザ感染を防ぐだけではなく、移行抗体により生後6か月までの乳児のインフルエンザ感染を63%減少させたという報告があり、妊婦だけでなく胎児にも免疫をつけるワクチンです。
